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「じゃあね、よろしくね」
紗也は颯爽と立ち上がると、よほど嬉しかったのだろう、軽やかに走って行ってしまった。
(な、なんでこんな事に……!?)
事の重大さにちひろは愕然とする。
全身から血が引いていくような気がした。
「お前さぁ、どういうつもりだよ」
その日の夜。
仁王立ちしてこちらを見下ろしてくる瑞樹に、ちひろはただ小さくなって膝をつくしかなかった。
こうなることを想像していたとはいえ、やはり瑞樹の高圧的な態度には屈してしまう。
「その、これには色々と事情がありまして……」
「事情ってなんだよ」
「不可抗力というか……仕方なかったというか……。とりあえず……申し訳ありませんでした!!」
「答えになってねぇ。どういうつもりで守口に近付いたんだよ」
「そ、それは……」
ちひろは口ごもる。
今日の昼間にあったことは、きっと彼女は知られたくないだろうとちひろは思った。
彼女の名誉の為にも、話さない方がいいのだろう。
ただ、彼女を守って欲しい有無はどうにかして伝えなければいけないと思った。
「た、たまたま会ったので、声をかけてしまいました」
瑞樹の表情がより険しくなる。
「ほー、興味本意で軽々しく話しかけたと」
「は、はい………」
「ふざけんなよ、そのおかげで四人で昼を食べたいってお願いされたんだぞ」
「………うっ……」
「相手の櫻悠平ってやつも乗り気だそうだ。そりゃそうだよな、お前の事好きなんだから」
「そ、そそそそそもそも、瑞樹君が守口さんと櫻君を一緒に帰すからこんな事になったんじゃ……」
「ほー。ちひろてめぇ、俺に非があるってのか」
「だ、だだだだだだって、私だけを責めるのは、間違ってるかと……!」
瑞樹の表情がますます険しくなり、ちひろはぐっと唇を引き結ぶ。
暫く瑞樹は仁王立ちでちひろを睨んだ後、疲れたようにベッドに腰を降ろして肩で息をついた。
「まぁ、こうなったからには仕方ない。どうやってやり過ごすか考えないとな」
「えっと、断り続けたらどうかな?お腹痛くなったとか、用事で忙しいから、とか」
「アホ、んな小学生みたいな言い訳通じるか。それに、断っても次に次にって繰り越されるパターンだ。どの道、いつかは一緒に食わないといけないだろうな」
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