1539人が本棚に入れています
本棚に追加
「確かに外見も頭も運動神経もいいかもしれないけど、中身に難があればもう完璧じゃないと思うんだ。だけど、あの人と来たら、異常な程の完璧主義者なの。現在過去未来、全てに完璧を求めてる。相手にもそれを求めるから、そうじゃない人間は眼中にないの。この前なんか、切ってあげたリンゴがみんな均等じゃないからって、食べなかったんだよ。信じられる?リンゴだよ?口に入れればどのみちぐちゃぐちゃになるんだよ?食べ物にまで完璧を求めるなんてどうかしてるよ。あの人の側にいる人はストレスで早死にするんじゃないかな。だからごめんだよ、あの人は」
そこまで言って、ちひろはハッとなった。
余計な事を口走ったと後悔しながら加菜恵を見る。
加菜恵は案の定、目と口をあんぐりと開けていて、ちひろはしまったと慌てて言い繕った。
「なーんて言う登場人物を小説で書いてるんだけどね。彼をモチーフにしたらそうなったというか、アハハハハハハ。妄想が行きすぎたんだね!」
加菜恵は暫く固まっていたが、ちひろの苦しい言い訳に納得したのだろう、「だよねー」と大きく頷いた。
「まるでちひろが月城君が知り合いみたいに言うからさ、ビックリしたよ。私達があんな雲の上の人と知り合える訳ないもんね。ましてや普通科の私達なんかがね……。まったく、小説書くのもいいけど、現実とごっちゃにならないようにしてよね」
「あはは、すみません……」
なんとか誤魔化せた事に安堵しながら、ちひろは心の中で自分に言い聞かせた。
(瑞樹君をモデルにして小説書いてるのは本当だからね……嘘はついてないよね、うん……)
嘘ではないとはいえ、大好きな友人に隠し事があるのはとても心苦しい。
彼からの圧力がなければ、平気で真実を言えるのに、と思って悔しくなった。
チラリと月城 瑞樹を見下ろす。
こちらを見ていたのだろう、やはり目があったが、それは優しいものではなく、無言の圧力をかけるように厳しいものだった。
(ほらね、あの人に関わる人はストレスで死んでしまうよ……)
吹き出る冷や汗を拭いながら、ちひろは窓から離れて席へと戻った。
また、黄色い声援が増した気がした。
ちひろには、いつも就寝前に小説を書く習慣がある。
幼い頃から物語が大好きで、小学生の頃から現在に至るまで、かなりの量の本を読み漁った。
最初のコメントを投稿しよう!