1540人が本棚に入れています
本棚に追加
特にファンタジーが好きで、気に入った小説には想像で挿し絵を書いたり、二次創作を書いたりしてときめいていた。
そして、わくわくやドキドキを与えられる側ではなく、与える側になりたいと思うようになったのは高校に進学した頃だ。
物語を読み終えると、どうしてだか寂しさが募るようになっていた。どんなにハッピーエンドでも、胸にぽっかりと穴が空いたように、とてつもなく寂しくなった。
そして与えられる側は、いつだってその寂しさを抱えなくてはならないと思った時、与える側ならどうなのだろうと考えたのだ。
そんな邪心から始めた物書きは、案外しっくりときて、徐々にちひろを魅了していった。
書きたいものが溢れでるままに、筆を走らせた。
誰に見せるでもない、本当に自己満足の代物なのだが、それでも楽しくて楽しくて仕方なかった。
(うん、今日は頭が冴えてる……!)
そうして、いつものように夕飯と入浴を終えたちひろは、自室のパソコンに向かって文字を打ち込んでいた。
授業中に書いたプロットを確認しながら進めていく。
当然、授業中にこんな事をやっているので、ちひろの成績はかんばしくなかった。
だんだんと順位が下がっていくのはわかっていたが、あまり気にならなかった。
今のちひろには、勉強よりも書くことが一番重要だったからだ。
ちひろはキリの良い所で指を止めると、グッと伸びをしてイスの背にもたれかかった。
チラリと時計に目をやり、時間を確認する。
時計の針は夜の11時を指していた。
(もうそろそろかな……)
げんなりしながら携帯の液晶画面を確認すると、待ち構えていたかのようにタイミング良くメッセージが入って来た。
そこには、「そろそろ来い」と言うそっけない文面が写し出されていた。
(さて、行くか)
ちひろはイスから立ち上がると、部屋の窓をガラリと開けた。
そして2階の小さなベランダに立つと、慣れた手付きで命綱を腰に巻き付け、柵をよじ登った。
目先には、作りが全く同じな家のベランダが間近にある。
ちひろはそこへ、よっ、と飛び移ると、命綱を外して窓をコンコンと叩いた。
すると、カーテンが開き、向こう側から窓がガラリとあいた。
最初のコメントを投稿しよう!