第1話

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「いちいちノックしなくていいから。勝手に入ってこいっていつも言ってるだろ」 そう悪態をつきながら姿を見せたのは、ちひろの幼馴染み、いや、腐れ縁とでも言うのだろうか、今朝学校で女子に騒がれていた張本人、月城 瑞樹だった。 学校での紳士的な表情や対応は成りをひそめ、ただただ感じの悪い男がそこに立っていた。 「一応、人様のお家だから、勝手に入るまねは出来ないよ」 「何年出入りしてると思ってんだよ。自分の家みたいなもんだろ。いちいち面倒なんだけど」 誰の為に来てると思ってるんだ、と心の中で言い返しながら、ちひろはしぶしぶ部屋の中へ入って床に腰をおろした。 「お前さ、今日上から俺の事見てただろ」 瑞樹がベッドの中へ潜り込みながら訪ねてきた。 どこか不機嫌な声の響きに、思わずビクッとなる。 「あ、えーと、まぁ、そうだね……」 「隣の女子に余計な事喋ってただろ。聞こえてんだけど」 ちひろの顔からサァッと血の気が引く。 「いや、それは、その……」 「わかってるよな?俺とお前が昔馴染みで、家も近所だって事、誰にもバレたくないって」 「はい……それはもう……」 「学校では一切関わってくるなよ。余計な事は誰にも言うな。お前が美人で頭がいいなら考えてやったけど、そうじゃないことくらいわかるよな?」 ちひろは答えるのも億劫になって大きく頷いた。 このやりとりはもう、数えきれない程繰り返している。 いい加減耳にタコで、 この理不尽な言動にも傷つかなくなっている自分がいた。 なにより、こう思うのだ。 そんなに怖がらなくてもいいのに、と。 ちひろには、瑞樹がキャンキャンと吠える小型犬に見えてしまう。 彼の抱える秘密を、唯一知っているからかもしれない。 「それと、もう一つ」 ちひろは目を丸くして瑞樹を見る。 瑞樹はベッドから上半身を起こすと、ちひろにニヤリと笑った。
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