ヒトはそれを命と呼ぶ

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 「ココハ……ドコ? ワタシハ……ココデナニヲシテイルノ……?」  無機質。  形こそ、ヒトの若い女性の容姿をしているが、静寂に支配された地上で音を発したその物体からは生命を感じることは無い。  しかし、意思は感じる。ロボット……かつてヒトはそう呼んでいた。  地上と形容したが、辺りは木々や花々も無ければ動物もいない。無機質な女性型のロボットと同じで、見渡す限り全く生命を感じることが無い。  女性型のロボットは、地に膝をつき、天を仰ぐような形でしばらくの間、動かずにいた。  生命を感じないとはいえ、かつて栄えたのであろう文明が遺した建造物は、その栄華を誇示させるかの如く、主を失った今も聳え立つ。  いくつか風化した物も散見されるが、多くは繁栄の頃の姿を保ったままだ。  どれだけの月日が経ったのか。  ただ、地球上から生命が消失したのは余りにも突然で、一瞬の出来事であったことだけは、今も当時のままの形を残す無機質な存在達が物語っている。  植物どころか、微生物すら存在が消えてしまった地球では、腐敗などの概念は無く、無機質はゆっくりと風化して砂に戻っていくのを待つだけだ。  それも、途方も無く気の狂いそうな長い年月をかけながら。  女性型のロボットはゆっくりと立ち上がり、右目に装着されたレンズ型の機器を起動させた。 「データインストールヲカイシスル。タシカメナケレバ……ワタシガ、ナンナノカ」  呟くロボット。何かのピースを探すように、レンズに映し出された光景に集中していく。  意識をその一点にだけ集約する。深く、深く、潜り込む。レンズに見えてきた世界では、まだヒトの姿が確認できるようだ。
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