ヒトはそれを命と呼ぶ

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 レンズに映し出された情景は、美しい水源が奔流する自然豊かな景色。険しい表情をした軍人達が水源の岸に並び、対岸を見据えている。透明感のある水源と、岸には色とりどりの花々、遠くには鬱蒼とした森林も見える。しかし、居並ぶ軍人達の姿は美しい自然の景観とは余りにも不釣り合いだ。  軍人の中から、齢五十程の一際厳つい男が一歩水面に歩み出てきて、背後に控える他の軍人達に向き直る。 「我々を侮辱した敵の待つ所へ進むぞ! 賽は投げられた!」  男が叫ぶように檄を飛ばすと、一斉に雄叫びを上げて対岸へと渡り始めた。  激しい水飛沫を上げながら、豊かな水源は泥が混じりその透明感を失っていく。 「チガウ! チガウ! ワタシがシリタイノハ、コレジャナい」  レンズに映る光景を見ながら、無機質なロボットは駄々を捏ねるように首を振りながら叫んだ。  映像はデータとなってロボットの中へと流れ込んでくる。  檄を飛ばした軍人の人生を追うように、ハイライトで目まぐるしく映像が変化し、最後は暗殺によって彼の生涯は閉じた。刹那、ロボットの回路がショートを起こし、レンズとの接続部に小爆発が起きた。しかし、それには見向きもせず、レンズの場面が切り替わる事にだけ集中する。  無機質と表現したが、女性型のロボットとしてはかなりヒトに近い容姿をしている。  美しいライトグリーンの長髪。大きな瞳は、髪の色と同じ。  そんな、大きな瞳が、僅かに歪んで細くなる。ヒトで言うなら、その表情からは憐れみや悲痛、苦しみが読み取れるだろう。
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