ヒトはそれを命と呼ぶ

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 飛び込んできた映像には、先程と似たようなところが散見される。  夜に激しく燃え盛る炎。違うのは、規模。木造で立てられた建物は、勿論その性質から次から次へと燃え尽き、音を立てて崩れていく。建物の中には、圧倒的な存在感を放つ人物が一人。逃げることもせず、ただその時を待っていた。 「……っ! ナに!?」  無機質な彼女を襲った衝撃。再び起こる小爆発。思考プログラムの回路がエラーを起こし、人間で言う、こめかみに位置する場所が小さな火を噴いた。 ようやく、彼女が自身に起きている異変に気を取られて集中が途切れると、映像に今までに無かった変化が起きた。  時間が多少巻き戻ったようだ。そこには、火の手の上がる前の建造物。そしてその建造物を見据える、若い男の姿。男の背後には、部下と思しき何人かの人間の姿も見てとれる。 「もう、俺は耐えられない。いくぞ! 敵は本能寺にあり!」  男が叫ぶと同時に、ロボットの彼女の左半身が爆発で吹き飛んだ。映像を見る度、彼女は次第にボロボロになっていく。それでも、彼女は辞めなかった。  地球上から生命が消えた。そして、彼女の記憶もどうやら失われているようだ。生命……とは言えないが、彼女は地球上で現在、唯一意思を持つ存在かもしれない。  そんな彼女は、何を知りたくてこんな事を続けるのか。  さながら、本能とも呼べるその行動は、ただただ常軌を逸していた。
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