ヒトはそれを命と呼ぶ

　地に伏したままの無機質な彼女は、右目に装着したレンズ越しにどこか遠くを見据え、呆然としていた。

「これジャなイ……わたシがシりたいノはコレじゃなイのに」

　譫言のように呟く彼女は、もう限界のように見える。地球上唯一の意思も、まさに風前の灯火。生命が姿を消し、今、意思すらも消えようとしている。

　レンズが、彼女に最期の映像を見せた。

　そこに映るのは、一人の老人と、まだ美しかった時の彼女の姿。

「はか……せ？」

　虚ろな瞳だった無機質な彼女が呟く。

「はかせ……はかせ！　博士だ！」

　声に元気が戻ってくる。ロボットであるはずの彼女から笑顔が溢れる。その笑顔と共に、彼女の体の至る所が爆発し、徐々に崩れていく。原型を無くしていく。

　それなのに、彼女は笑顔のままだった。