旋律は時を越えて

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大人どころか女になるにも覚悟がいる。 男のぼくには想像するしかできないけれど、子供を残して死ぬことが彼女にとっては怖かったのかも知れない。 若かったことを言い訳に気がついてあげられなかった。ぼくの脳内には彼女の旋律が降ってくる。繰り返される言葉は果てても消えない呪詛だった。 彼女を。美奈子を忘れられなかった。そんな彼女に愛を教える男は居るんだろうか。王子のような生ぬるい貴族さまでは無理だろう。かといって遊び人では荷が重すぎる。 今のぼくならば、時間を掛けて、検索し、愛が産声をあげるなら無理とは言わずに残業してでも見つけ出そうとするだろう。 仏像に願って奇跡が起きるなら尿意も我慢しょう。 貧民に落ち、春巻きで飼育され惨めな境遇に居たとしても彼女を繋ぎ止めようとするだろう。 入浴しながら他の女の柔肌に触れてまた別の女のことを考える。 これは愛なのかと疑問を匂わせるのは美奈子の言葉の意味を心のどこかで理解したからかもしれない。あのときに放った美奈子の旋律は、ぼくへの愛だったと、それは都合のいい解釈かもしれないけれど。今のぼくにはそう思えてならなかった。
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