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「クリック!! クリック!! 起きなさい! もう昼になるよ!!」
クリックと呼ばれた青年は気だるそうな顔を隠そうともせずに眠りに付いていた寝具から体を起こした。
寝癖の付いたボサボサの頭を掻きながら大きなあくびをしている。
「ふあぁぁああ~……ありゃ? もうこんな時間か。出発するか!」
クリックは目の前の壁にある使い古された鞘に収まった剣を手に取り、その背に装備した。
「なにバカなこと言ってんだい! ほれ、ご飯作ったから食って行きなさい!」
「お、おお! なんだこれ! こんな豪勢な食事なんか用意して、どうしたんだ!?」
テーブルの上に並べられた食材を見てクリックは驚いたように食事とクリックを起こした女性を交互に見ている。
そこに並べられた食事はこの世界の水準から言うとお世辞にも豪勢な食事ではないが、貧困なクリックの家庭では、およそ豪勢な物だったのだろう。
「クリックが今日、初めてあの塔に入るんだ。このぐらい、当たり前じゃないか。バカ言ってないでクウを起こしておいで」
「あ、ありがとう母ちゃん……。わかった。クウ呼んでくる!」
クリックは照れ臭そうに鼻を掻きながらそういうと家を飛び出した。
向かったのはクリックの家と道を挟んで向かい側の小さな家だ。
扉を叩きながら大きな声を上げる。
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