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「何を?」
「…何年か前の夏祭りで会ったことがあるんだけど。」
そう言われてまじまじと彼の顔を見たが、何も思い出せない。
「…その前にも、俺は君に会ってるよ。俺が入院している時、俺の話し相手になってくれた。」
「何年前?」
「小学生のとき。小学6年生。睦月病院で、双神先生と一緒に来てた」
「うーん」
母が病院に勤めているので、放課後は彼女の勤め先である睦月病院によく行っていた。その時、子供病棟で時々カウンセリングのような雑談をしていた。でもそのとき話した人の顔は覚えていないし、時が経てば顔立ちも変わる。
カズくんも当時の事を色々思い出し、あれこれ言うが心当たりはない。諦めさせようと口を開きかけたところで、カズくんは間の抜けた声で「あ。」っと言った。
「…思い出した。はくはつき。俺、君に白髪鬼のこと話した。」
はくはつき…と口の中で反芻する。白髪鬼。その知識があるということはきっと僕はカズくんに教えてもらった証拠だ、と思いたい。
「江戸川乱歩がリメイクした小説で…復讐の鬼がどうのこうのって話だよね」
その言葉にカズくんはきらっと目を輝かせた。とても嬉しそうだった。
「あぁ。よかった。覚えててくれて。」
カズくんは顔を横に向け、僕の視線から逃れるようにした。顔が見えなくなる直前に見せたあの顔はなんだろう。まるで僕が覚えてなかったら自分が消えてしまうとでも言うような、あの心底ほっとしたような…。
…そんなわけがないか。ぼくは頭を振り、鍵を探す真似をした。
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