0人が本棚に入れています
本棚に追加
「…ふたがみさん」
暦ちゃんが小さく可愛い声で僕を呼んだ。大きくパッチリした黒い瞳が僕を見ている。少しどきどきしながら「どうしたの?」と小さく訊いた。
「くち、つけてません…すみませんが、たべてもらえませんか?」
皿には肉が綺麗に残っていた。
アレルギーというわけではないのだろう。初日に花塵さんが皆にアレルギーがあるかと訊いていたし、そもそも月ヶ瀬女医は暦ちゃんの主治医でもある。
「苦手なんだ?」
暦ちゃんがこくりと頷く。僕は残された肉をありがたくもらった。暦ちゃんにお礼を言われたが、お礼を言うのはどちらかといえば僕のほうだ。
「ふたがみさんは嫌いなものってなさそうですね」
食べ終わり、暦ちゃんがお盆に皿を載せながら訊いた。
「いや、そんなことないよ。僕だって食べれないものはあるよ。おにぎり食べれないし」
「おにぎり?」
暦ちゃんは驚いた顔をした。まだ食べていたカズくんもちらっと僕を見る。
「おにぎり全部食べれないんですか?」
「うん…茶碗のご飯は食べれるけど、握ったものは苦手かな。でも寿司は食べられるよ」
「なんだかかわってますね?」
「暦ちゃんもね」
そのあとも暦ちゃんと談笑をして時を過ごした。
最初のコメントを投稿しよう!