さよならセンチメンタル

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 真中は、玄関先に座り込んでいた。  制服姿で、上からとっぷりと毛布をかぶっている。  考えることは一緒なのか、やっぱりビニール手袋とマスクを着けていた。  オレの顔を見ると、真っ赤な目で、力なく、それでも嬉しそうに笑った。 「中には入らないほうがいいと思う」  真中がそう言ったので、室内がどうなっているのかは、なんとなく予想がついた。  隣に並んで腰を下ろすと、毛布を引っ張って、オレに半分掛けてくれた。  コンコンと小さく咳を繰り返しながら、真中は言った。 「来てくれて、ありがと」 「どうってことねぇよ」  ぴったり寄り添った肩から伝わってくる温もりは、気恥ずかしさより、真中が生きていることを実感させてくれて、たまらなく嬉しかった。 「電話番号を知ってる友達に片っ端から連絡したんだけど、誰も出なくて……そしたら、沢渡に電話するのすごく怖くて……」  昨日までは、クラスのやつらも普通に登校していた。  放課後から今朝までの間に、爆発的に感染が広がり、発症するような、何かが起きたのだろうか。  再び泣きはじめた真中のビニールの手を、同じビニールの手で、そっと握った。
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