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もしかしたら、と思った。
物事を深く、悪い方向へ考えさせて、自殺したくなるほどセンチメンタルな気分に追い込むそのウイルスは。
もともと切ない気分をかかえて過ごしている人間には、猛威をふるえないんじゃないだろうか。
オレは知っている。
真中の『先輩』が、真中とは違う女子と、二人でよく歩いていることを。
そして、真中自身もそのことを知っている。
だってオレは、そんな真中をいつも見ていたんだから。
もしかしたら、オレたちには、抗体ってやつができていたんじゃないのだろうか。
もちろん、それは、オレの勝手な推測だけど。
隣で泣きじゃくる真中。
抱きしめてやる勇気もないオレは、ただぎゅっと手を握ったまま言った。
「ニュース、ちゃんと見たか? ワクチンをぶちまけてくれるんだとさ。今日の夕方までに。その効力はすごいらしいんだわ」
ずぶ濡れの瞳を、真中はこっちに向けた。
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