さよならセンチメンタル

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「弟がね、誕生日なんだ。何買ってあげたらいいか、わかんなくて」  昇降口で、靴の爪先を地面にトントンしながら、真中は言った。  いつもと変わらずニコニコしているけど、その表情はフィルターがかかったみたいに少し暗い。  まだ喪も明けない内に身内の誕生日を祝うなんて、消えていったばかりの命に申し訳ないと感じているのかもしれない。  先に準備ができていたオレは、ガラス戸に寄りかかって眉をひそめる。 「そんなんよー、オレなんかじゃなくて……オレなんか誘ったら、アレじゃねー?」  わざと核心をつかない言い方をした。  だけど、真中は頭がいいから、すぐに察しがついてへらっと笑う。 「……先輩は忙しいんだって。最近ずっとそう」 「受験勉強とか?」  オレはロータリーのほうを見ながら、適当なことを言う。 「かな。よく、わかんないけど。たぶん」  今度は、真中のほうの歯切れが悪くなった。  オレを追い越して、咳をしながら、トコトコと玄関を出て行く。  でも、あとをついて歩き出すオレのほうが、ずっとコンパスが長いから、あっという間にその細い肩に追いついてしまう。
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