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思わず全身が半端なく強張ってしまい、気づいた彼が腕の力を緩める。拒まれたと感じたらしく少し寂しげな声を出す彼に胸が痛んだけど自分でもどうしようもない。
「…夜ちゃんとこうして話してて退屈とかつまらないなんて全然思わないよ。そんな風に自分のこと、考える必要ないと思う。…別に。いきなり付き合うのが無理ならそれでもいいんだ。単に友達としてでも。初めは」
やっぱりそうだよね。わたしは首を振り、少し惨めな気持ちで答えた。
「でも。…未来がないってわかってるのに、上村くんを受け入れるのは。…友達以上になれないってちゃんと知ってるのに、自分で」
「…うん」
彼は短く答えたきり黙った。その表情は伺えない。
わたしは心の底から情けない思いで力なく横たわっていた。こんなわたしだって知ってて手を差し伸べてくれてるのに。優しくていい人なのに。どうしてわたしはその手を取らないんだろう。何でこんなところから離れて新しい生活をこの人と始めようとしないんだろう。
でも、自分でも本当は知ってる。一緒にいたら間違いなくわたしはこの人をどうしようもなく傷つける。結局彼を受け入れられずこのクラブに舞い戻ってくる自分の未来の姿が頭の端を過ぎる。
そんなことになるくらいなら。最初から何も始めない方がいいんだ。今ならまだ誰も傷つけないで済むもの…。
その日、彼とそのあと何を話してどんな風に別れたかは覚えていない。上村くんとクラブで顔を合わせることはその後二度となかった。
わたしは本当に間違えていなかったのか、今でも不意にそんな思いが脳裏を掠めることが時にある。
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