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「大丈夫ですよ、ありがとうございます。…夜さん、寄りかかってなら歩けますか?」
「うん…」
遠慮なく彼の腕に凭れ、目を閉じる。散々男たちの身体に抱かれた後なのに、穏やかなその体温に包まれることに微かな慰めを感じる。歩き出したわたしたちの後ろで泣き言が聴こえた。
「あぁ、もうちょっとだけやりたかったなぁ。あんな気持ちよさそうにびくびくいくの見ちゃったらさ。あと一回くらいなんとかいけたんじゃないかな、まだ」
「酸欠になっちゃうよあれじゃあ。…夜ちゃん、ゆっくり休んでおいで。回復したらまた戻ってきてね。待ってるよ」
ざわざわと散開する集団に、別の黒服が声をかけたのが聞こえた。
「ただ今サクラさん到着しました。皆様、是非お相手を」
ふわ、と彼らの空気が盛り上がるのが伝わってくる。皆さん実にお元気だ。
「サクラちゃんかぁ。あの子もほんと、好きだな。今月何回め?」
「あの子、あれ中毒だから…。しょうがないなぁ、俺たちでしっかり念入りに隅々まで慰めてやるか」
そう言いつつ浮き浮きと楽しそう。時々ついていけない。わたしは力の抜けた身体を黒服に支えられながら、背後からかけられる「またね」「後でね」の声に片手を僅かに挙げてみせてその場を後にした。
いくつものフラットソファが置かれた広いラウンジから出て、奥のバックヤードに抜ける狭い廊下に出る。この先はスタッフオンリーだ。女の子が身体を休めたり身繕いをする時は当然のようにこの奥の休憩室を使うけど、彼女らは会員じゃないの?とか野暮を言う男性会員はさすがにいない。
絨毯が敷かれた廊下は全ての音を吸い込む。足音も声も響かない。わたしを支えていた黒服の子が優しく肩を抱き寄せ、小さな声で話しかけた。
「…大丈夫?夜さん」
「へいき…」
深く息をつきながら掠れた声で答えると、彼はちょっと怒ったように声を強め、ぎゅっと肩を掴んだ手に力を込めた。
「全くあの人たち…、いい歳して。夜さん、明らかにへばってるのに。全然容赦ないんだから。大人げないよな」
他の人影が見当たらない静かな廊下で彼はそっとわたしを胸に抱き抱えた。
「いつもいつも夜さんに対しては徹底的に最後までしようとするんだから…。失神するまでなんて、冗談じゃないよね。意識失えば逃げられるって言ったってそんなのコントロールできないし」
わたしのために義憤を覚えてくれてるらしい。
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