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勿論身体の関係はない。ただ、あのペントハウスを使う会員の都合には概ね波があってこの曜日の午前中はまず誰も来ないとかは大体読める。会員たちと行き合わせたくないので、彼はそういう時間を使って部屋のチェックや手入れをしたりコーヒーを淹れて自分の仕事を済ませたりすると聞いたので、時折気がむくとそこまで赴いて一緒にコーヒーを飲ませてもらったりただぼんやり横になって寛いだりするようになった。万が一誰か来ても、加賀谷さんの前では無理強いはして来ないだろうし。
単にリラックスするためだけの目的であの部屋を使うようになるとは想像もしなかったが。そんな時のペントハウスはしんとして、いつもの狂騒的な非日常空間と同じ場所とは思われない静謐な表情を見せた。
ある日、今日は来るかなと適当に見当をつけてふらりと部屋を訪れると中はしんとして誰もいない。来る時は大抵わたしより早い時間からいるから、今日は都合が悪いってことか。ふと思い立って念のためにスマホを取り出すと、加賀谷さんからLINEが送られてきていた。
『今日自分は仕事の用事ができたからあの部屋には行かれない。君は自由に使っていいけど、一応気をつけて過ごすように。他の会員が絶対来ないとは限らないから。不本意なことや不快なことがあったらすぐ連絡するように』
本当に意外に小まめな人だ。しかしどうせ連絡くれるならもう少し早めにお願いしたかった。わたしは何の気なしに返信した。
『もう着いちゃった。お仕事中なんじゃないですか。連絡して大丈夫なんですか?』
『非常事態には代えられない。自分で行けなくても誰かちゃんとした奴を行かせるから』
例の、脅迫されて不本意な行為を強いられた女の子の件を思い出す。若い素性の不明な男たちがガードについたって彼女から聞いたっけ。やっぱり裏の世界の匂いがするなぁ。
すかさず次の着信が入る。
『その時間帯、ほぼ誰も来ないとは思うけど。会員なら誰でも鍵開けて入れるから長居は無用。眠るなら寝室に入って内側から鍵をかけるように。とにかく油断しないで』
わたしは内心呆れる。この人、わたしのことなんだと思ってるんだろう。乱交も乱交、相手構わずのセックス・クラブのメンバーだよ?この場合危険なことって一体何なんだ?
貞操の危機ではないことだけは間違いない。と思うけど、もしかしてわたしのこと処女かなんかと勘違いしてないか?
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