第4章 わたしの身体はみんなのもの

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まあ、実際にするとこ見た訳じゃないから案外そういう実感が湧かないのかも。 そんな推測がまるっきり見当外れだったことをわたしは後日思い知ることになるが。その日はとにかく肩を竦め、コーヒーを自分のためだけに淹れるためにキッチンに向かった。 その時、意外にも玄関の方から物音がした。思わず身を強張らせる。キーで入って来られるのは会員だけだし、問題のある連中は一掃されたばかりだからそんな変なことはないと思うけど…。 加賀谷さんの用心深さに影響されてるな。わたしはコーヒーの粉をマシンにセットしつつそちらの気配に神経を払い続けた。ガシャ、ガチ、と音が響く。少なくともちゃんとルールは守る人物のようだ。 あの事件以来、スマホや携帯は入り口に新しく設置された専用ロッカーに入室の際必ず預ける決まりになった。しばらくはここの玄関に目を光らせたお目付役の謎の男性が詰めて、ルールが周知徹底されるまで見張っていたものだ。残った会員は穏当なメンバーが多数派だったせいか、特に抵抗もなくその習慣は根付いたようだけど。 尤も女の子はそれを守らなくていい、とわたしは加賀谷さんから直々に言い渡された。 「いざという時外部との連絡手段があると無しとでは大違いだから。万が一のことを考えると手許に携帯はあった方がいい。工夫すれば充分なセーフティネットになり得るよ」 その生真面目な声と表情を思い出してしまいつい笑みが浮かぶ。本当にあの人、なんだってこんなクラブの統括なんかしてるんだろう。 リビングに顔を出した人物はわたしに気づき、くっとその目を見開いた。見覚えのある男の子だ。何回か『お手合わせ』したことがある。結構積極的な別の男の子の友人らしく、いつもその子に連れられてやってくるって印象があった。 「夜ちゃん。…どうしたの、こんな時間に。誰かと約束してるの?」 やっぱりわたしの顔と名前知ってるんだな。まあ、女の子は絶対数が少ないから、必然的に。わたしは曖昧に笑って彼の名前を思い出せないことは誤魔化した。 「全然そうではない。誰も来ないと思ってた、この時間帯。コーヒー飲みに来たの」 彼は意外そうにキッチンに目をやった。 「家ここに近いの?もしかして」 「そういう訳でもないけど。たまにね。時々」 普段は加賀谷さんも来てるってちゃんと言った方がいいのかな。迷ってるわたしに気づかず彼は鞄を床の片隅に置いた。
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