第4章 わたしの身体はみんなのもの

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でもそれだといくら何でもコーヒー冷め過ぎじゃないか。多分アイスコーヒーになっちゃうでしょ。いやそこまででもないか、仮眠程度だから。でも、普通に考えてコーヒーがちょうど冷めるくらいの時間でできることって…。 わたしはどっちつかずの気分で彼の後について寝室に赴いた。まあ、それを求められても別におかしなことではない。全然そんな雰囲気じゃなかったけど本来ここはそのための場所だし。会員同士は申し出るのも断るのも自由だ。 感じのいい人だし。断る理由なんか、別にない…。 彼は率先してベッドにごろん、と横になった。雰囲気としては本当に眠るつもりかなと思う。枕に頭を載せて思い出したようにわたしの方に視線を向けて、空いたスペースともう一つの枕を手で示して招く。 「おいでよ、こっちに」 一応体裁としては寝室だから、枕だのベッドパットだのの寝具もちゃんとある。それはここを眠るために使うようになって気づいた。他の人たちといる時は、せいぜいエッチな姿勢を取らされる時に身体のいろんな場所に当てがったりとか…。 そんな場面のあれこれを一瞬思い出してしまい、何故か不意にどきんとする。何となくだけど、やばい。 ここってやっぱり、セックスするための場所だよね…。 いつもする時はリビングに入るなり数人に群がられるようにむしゃぶりつかれ、服を剥がされていくつもの手で弄ばれて考えてる間もなくそれに突入するから。こんな風に静かに招かれることなんか全然ない。 何故か足が止まってしまう。このまま近づいていったら。…この人とする、のかな。 そんなことしていいんだっけ?なんか、それは違うって気が…。 でも、あまりびびっていると変に思われる。この人とだって何回かしたことは既にある訳だし。まあそれは他にも何人かいたうちの一人としてで、こんな風に名前を知っていろいろ話して笑いあって、相手の顔を判別できる状態ではなかった…、ことは。確か、だけど。 それの何処が問題なの? 怖気づく気持ちを振り切るようにその隣に遠慮がちに横たわる。もしかしたら本当に単に一緒に眠るだけかもしれないし。少し強張って身体を縮めたわたしの方に、上村くんは真面目な顔でそっと手を伸ばしてきた。 肩に触れた手に図らずもびくん、となる。彼はちょっと気が引けたように手を引っ込めた。 「ごめん。もっとこっち来たら、って思って…。そんな、ベッドの端っこだし。
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