アズキナシ

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  小さい頃に両親が離婚し、奔放な母は子育てに向いていないからと、僕らは祖父母に育てられてきた。 母は今、札幌で働きながら気ままな一人暮らしをしているらしい。 優しかった祖母は五年前に病で先立ち、それからはずっと歳の離れた姉が家の中の家事をこなしてきた。 そして牧場の従業員として働いていた男と結婚し、牧場を継ぐ。 高齢の祖父もそろそろ引退を考え、これからは実質瀬尾さんと姉でこの牧場をやっていくんだろう。 以前から姉が瀬尾さんに片思いをしていたのは知っていたし、彼はとても魅力的な人だ。 でも。 産まれてから死ぬまで。この場所で、ずっと。 ぼんやりと空を見上げると、大きな翼を持つ鳥が悠々と飛んでいるのが見えた。鷹か鷲か、それとも鳶か。目を凝らしてみたけれど、それは数度羽ばたいただけであっという間に視界から消えた。 学校についてペンケースを開くと、今朝入れた小さな花びらが干からびて丸まっていた。 あんなに白くて綺麗だった花弁が、黄ばんで色褪せているのを見て、少しだけ悲しくなった。
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