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母屋の居間で、祖父と姉と三人で食卓を囲む。いつも通り会話の少ない夕食を終え祖父が立ち上がるタイミングで口を開いた。
「これから瀬尾さんの部屋に行ってもいい?」
食器を下げようとしていた姉が、僕の言葉に首を傾げる。
「また勉強教えてもらうの?」
「うん」
頷きながらちらりと祖父の顔を窺うと、「あまり甘えて迷惑をかけるなよ」とだけ言われた。
「わかってる」
無口で無表情な祖父が、僕は少し苦手だ。
深くシワの刻まれた強い視線で見つめられると、僕の考えていることなんて簡単に見透かされてしまいそうで、こわい。
瀬尾さんは同じ敷地にある離れに住んでいた。
今は繁殖牝馬が十頭にも足らない小規模な牧場だが、生産から育成まで手広くやっていた十数年前までは、たくさんの住み込みスタッフがいたらしい。
母屋に続くように建てられた社宅は、今ではそのほとんどが空き家だ。その中でひとつだけ、明かりが点った建物に小走りで向かう。
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