アズキナシ

14/32
前へ
/32ページ
次へ
  僕の視線をなぞるように陽に焼けた長い指がノートの上に伸びた。 白いノートに書かれた僕の筆跡を瀬尾さんの指がなぞる。 それだけで、心が震えた。 震える吐息に気づかれませんように。 そう祈りながら僕は慎重に呼吸を繰り返す。 この人はもうすぐ僕の義理の兄になる。 心の中で何度も自分に言い聞かせる。 顔を上げると視線の先に薄い桜色の封筒が見えた。 あの中になにが入っているのか、僕は知っている。 彼がいない隙に勝手に開いて盗み見たことは、誰にも言えない。 ……あの封筒の中身を、姉は知っているんだろうか。  
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加