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ある日、学校から帰ってくると、厩舎の前で瀬尾さんと姉が言い争っていた。
「廃馬だなんて、どうして!?」
いつも穏やかな姉が怒るのを初めて見た。
驚いて足を止めると、瀬尾さんの低い声が聞こえてきた。
「春香。分かってるだろ。ここは生産牧場で、犬や猫みたいな愛玩動物を飼ってるわけじゃない」
落ち着いた口調。感情の透けて見えない静かな声。
「分かってる! でも、どうしてそんなに簡単に殺すなんて決められるの?」
「簡単にじゃない。きちんとオーナーと話し合って決めたことだよ。種付け料だけで百万単位のお金を払って、育て上げるのにまた何百万って費用がかかる。競りで売れないとわかってて、お金を捨てるような真似は出来ない」
「だけど、でも……。どうしてそんな平然としていられるの? 悲しくないの!?」
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