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「感情は関係ない。仕方がないことなんだよ」
瀬尾さんはそれだけ言うと、柵で囲まれた放牧地を見やる。
そこには甘えん坊の黒鹿毛の仔馬が今日も母馬に寄り添って草を食んでいた。
重い空気から逃げ出すように、姉が母屋へと向かう。
その背中を静かに眺めていた瀬尾さんが、立ち尽くす僕に気づいて薄く笑った。
「瀬尾さん……。あの仔馬、廃馬になるの?」
緑の牧草の合間にぽつぽつとたんぽぽが咲いていた。仔馬がその鮮やかな黄色を、不思議そうに鼻先でつついて遊んでいた。
「ごめんね、千秋くん」
謝られ、慌てて首を横に振る。
馬に全く興味がなかった僕でさえ、牧場が綺麗事だけではやっていけないことを知っている。
何頭もの馬が、処分されるのを小さい頃から見てきた。姉だってそんなのわかりきっているはずなんだ。
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