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それなのに、一方的に瀬尾さんを悪者にして責めるなんてひどい。
僕がそう言うと、瀬尾さんがゆっくりと首を振った。
「春香は悪くない。不安定な時期にこんなことを言った俺が悪いんだ」
「不安定?」
僕が首を傾げると、瀬尾さんが目を伏せた。
「千秋くん、悪いけど春香についていてあげて。なにかあったらいけないから」
呆然としながらかろうじて頷き、母屋へ向かう。
物音のする洗面所を覗くと、姉が鏡の前で背中を丸めていた。
蛇口が一杯に開かれ、すごい勢いで水が洗面台を叩いて流れ落ちていく音を、僕は廊下に立ったままぼんやりと聞いていた。
水音に交じる嗚咽に、漠然とした予感が確信に変わる。
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