アズキナシ

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姉と瀬尾さんはもうすぐ結婚するんだ。なにも不思議なことはない。 だけど……。 いつも勉強を教えてもらっている瀬尾さんの部屋を思い浮かべる。 リビングに続く狭い寝室に置かれたベッド。 いつも綺麗に整えられた無地のシーツ。 洗面台につっぷして胃液を吐き出す姉の白いうなじ。 陽に焼けた瀬尾さんの長くて筋張った指。 レターラックに入れられたままの封筒。 前足を引きずって不器用に歩く仔馬の綺麗な黒い瞳。 僕の中で色んな物がぐるぐると回って、ぐちゃぐちゃに融け合って、どろどろの汚い渦を巻く。 全て吐き出したくなる衝動を、きつく拳を握って必死にこらえた。
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