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その夜、みんなが寝静まったのを確認して部屋を抜けだした。
足音を忍ばせて放牧地の中にある厩舎へと向かう。
それぞれの馬房で馬たちは立ったまま浅い眠りを繰り返す。
微かな吐息と時折もれる細い鳴き声。
明かりのない暗闇の中は、静まり返っているのに、じっとりとした力強い生き物の気配で満ちている。
天井に近い位置にある明かり取りの窓。
そこから差し込む微かな月明かりしかない薄暗闇に、次第に目が慣れる。
息を殺して一番奥の馬房にたどり着くと、甘えん坊の黒鹿毛の仔馬はまだ起きていてこちらを見ていた。
綺麗なまん丸の黒い瞳が、僕を見て瞬きをする。
彼は自分の運命を理解しているんだろうか。
邪気のない無垢な瞳は、悲しみも苦しみもきっとまだ知らない。
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