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「あ……」
見失ったと思っていた白いかけらは、僕の髪についていたらしい。
「アズキナシの花びらだよ」
「アズキナシ?」
「ナナカマドの仲間。この時期になると白い小さな花が散って、雪みたいに降るの知らない? きっと、どこかに自生しているのが飛んできたんだな」
瀬尾さんは白い花弁を僕の手のひらの上に置いてくれた。
小さな雪のような、白い花びら。
一瞬触れた、指先の感触。
右の手のひらの上にある頼りないそれが風に飛ばされてしまわないように、左手でそっと蓋をした。
視線の先には芽吹いたばかりの柔らかい牧草を食べる黒鹿毛の馬。そのすぐ横にこの春生まれた仔馬が寄り添い、母の真似をして草を食んでいた。
同じ時期に生まれた他の仔馬たちは、もう大きな放牧地を自由に駆けているのに、この仔馬は甘えん坊のようで母馬のそばを離れずにいる。微かに前足を引きずるような不器用な歩き方で、楽しそうに母馬の後を追いかける。
お馬の親子はなかよしこよし、なんて童謡を思い出して無意識に口ずさむと、瀬尾さんは目を細めた。
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