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「歌の通り、馬の親子は本当に仲良しですよね」
「あぁ。でも夏には離しちゃうけどね」
「そうなんですか?」
「こんなに仲良しなのに半年たらずしか一緒にいさせてやれない。仔馬は人を乗せる訓練をはじめるし、牝馬は次の仔を産む準備をしなきゃならないし」
競走馬の牧場主の孫として生まれて十五年。今まで祖父の仕事に全く興味がなかったのに、瀬尾さんの口から語られる言葉は、なぜかすんなりと僕の心に入ってくる。
「……そっか。じゃあ、今のうちにしっかりお母さんに甘えるんだよ」
母馬にそっくりな綺麗な黒鹿毛の仔馬に話しかけると、瀬尾さんが手を伸ばし僕の頭を乱暴に撫でた。
「ちょ、痛いよ!」
慌ててその手を払いのけると、瀬尾さんは陽に焼けた頬にシワを寄せて笑う。
「千秋くんの髪も綺麗な黒鹿毛だね。こいつと一緒」
近づいてきた仔馬の背を撫でながら、ちらりとこちらに視線を投げる。その視線が優しくて、一瞬だけ呼吸が苦しくなる。
黒鹿毛の仔馬は瀬尾さんにとても懐いていた。甘えるようにぶるりと息を吐き出して首を上下に振る。馬の無垢な黒い瞳は、近くで見ると驚くほどに表情豊かだ。
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