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「だから、僕は馬じゃないです」
「わかってるよ。馬よりよっぽど可愛い」
甘える仔馬とじゃれあいながら、平然とそんなことを言うこの人は、もうすぐ僕の姉と結婚する。
僕の、義理の兄になる。
数年前、瀬尾さんはふらりとこの牧場にやって来た。以前は本州のトレセンで調教師をやっていたらしいと風の噂に聞いた。
そんな人がなんでこんな田舎のこんな小さな牧場にと不思議に思ったけれど、彼は知識の豊富さと人柄で、あっという間に地元に馴染んだ。
仔馬に頬ずりされて笑う瀬尾さんをぼんやり見ていると、母屋の扉が開き中から姉が出てきた。
「あれ、千秋。まだいたの? スクールバスもう行っちゃったんじゃない?」
とっくに中学に向かったはずの僕がまだこんな所にいるのを見て、目を丸くする。
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