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「ごめん春香。俺が声をかけて引き止めたからだ」
「瀬尾さんと話してたの? 今まで千秋、牧場なんて毛嫌いしてたのに、瀬尾さんがうちで働くようになってから馬が好きになったよね」
「……別に」
おおらかに笑う姉に、慌てて顔をそらした。
「ほら、遅刻しちゃうから車で送ってあげる」
「いいよ、歩いて行くから」
「何言ってるの。歩いたら中学校まで一時間以上かかるでしょ」
車の鍵を取りに母屋に戻る姉の後姿をぼんやりと眺めていると、「さ、学校に行っておいで」と瀬尾さんに背中を押された。
「瀬尾さん。今日の夜、部屋に行ってもいい?」
「勉強教えてほしいの?」
僕が頷くと瀬尾さんは仕方ないなと小さく笑い、こちらに背を向け厩舎へと歩き出す。
瀬尾さんがこちらを見ていないことを確認して、背負っていたリュックからペンケースを出し、手のひらの中にあった小さな花びらをしまった。
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