前途多難

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  LDKに上がった2人はジロジロと室内を見回し、   洵が父やその恋人・香月と去年の正月に撮った   という家族写真を見て軽く息を吐いた。 「ビックリしたわ、ニュースで知ったのよ」   リビングのソファーに腰掛け、   富子は優しそうな声を洵にかけている。   洵が富子とその情夫をLDKへ上げた直後、   帰宅した安東はその気配を2人に悟られぬよう   キッチン側の出入り口から入って、   朋也と合流しキッチンでコーヒーの準備を   しながら、間近では初めて見た洵の母という女に、   妙な感情を抱いていた。   べらべらと自分達のことばかり喋り、   洵に対してのいたわりや慰めの言葉が   1度も聞こえない。   それでも母親か?? と、思った。   洵だって、久しぶりの再会のはずなのに、   眉ひとつ動かさず、ずっと怖い顔をしている。 「ねぇ、マコちゃん、お母さん達と暮らさない?」   富子はおもむろにそう口にした。  (マコが ―― この女と……?)   ドクンと胸が大きく鳴る。   実の親と共に暮らす――それが、一番マコには   いいのかもしれない。   けど、今の安東は洵を支えているつもりが、   あいつから支えて貰っているところもある。   オレは遂に、たった一人になってしまう?   柄にもなく不安になってトレイを持つ手が震え、   カチャカチャとカップが鳴る。  (マコ……行ってしまうのか?) 「お断りします」   洵が静かに口を開いた。   いつも通りの落ち着いた凛とした声だ。 「何、言ってるの? お母さんと行くでしょ?」 「行きません。12の時あなたがアパートを出た  あの瞬間から、ボクの母は死んだものと考えて  ましたし」   富子の隣で情夫が作り笑いを浮かべ、   洵に猫なで声をかけた 「子どもは親と一緒が一番だ。洵くん、  お母さんの言う事は聞きなさい」 「部外者は黙っていて頂けませんか。  貴方には全く関係ない事ですし」
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