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第一章 喫茶店の変人達
瞼を開くと、枕元が微かに濡れていることに気が付いた。
どうやら俺は泣いていたらしい。
別に悲しい出来事があったわけでも、泣くほど嬉しい出来事があったわけでもない。
たまにあるのだ。
いつもはきっと怖い夢でも見たのだろうとか、寝ているときに目にごみが入ったのだろうとか適当に考えていたが、流石に何回もとなると少し不安になってくる。
いつも涙を流した日は妙に目覚めが悪いうえに、胸の中もモヤモヤとする。
何かあったような、なかったようなと思わせるような曖昧な感覚。
それはもしかしたら……。
「いや、やめよう……」
俺は『ある』考えに辿り着きそうになり、思考を中断した。
それはきっと喜ばしいことの筈なのに、どうしても受け入れられなかった。それに、肝心の内容の方は全く思い出せないから、多分違うだろう。本当に大切なことなら覚えているはずだ。
覚えていないことを無理に思い出そうとするのは中々気分が悪いものだ。しかも、こういうのは思い出そうとすればするほど思い出せない。人間の脳とはなんとも不思議だ。
俺は気だるい体を起こして、顔を洗いに洗面所に向かう。
春休みも残り二日。
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