第三章 交錯する記憶

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第三章 交錯する記憶

「なぁ、この辺に桜が綺麗な場所とかってないか?」  早朝。朝食を食べに皆が集まったところで、開口一番そう口にした。  今朝見た夢の最後に言っていた『桜の下で待っている』という言葉が気になったからだ。  まあ普通なら特に気にすることもないのだろうが、いつもは夢を見ても全く思い出せないのに、今回ははっきりと覚えている。もしその夢が、二年前に失った記憶に関係することなら夢に出てきた桜を見れば何か思い出すかもしれない。  そう思っての発言だったのだが……。 「桜? 今更見に行ってどうするんだよ? もう散っちまってるだろ?」  眠そうな声で小林が言うと、ゆっくりとした手つきで食パンを口に運んだ。 「いや、それはそうなんだけどさ……」  俺は言われて気づき、言い淀む。  確かに今日でもう五月に入った。小林の言うとおり、今から行っても桜はもう散ってしまっているだろう。  それでも、何か分かることがあるかもしれない。そう思った。 「何でそんなに見たいの?」  俺が言い淀んでいると、御島が不思議そうな顔をして言った。 「……ただの気まぐれだよ」  御島の質問に言葉を濁した返しをして、手元のコーヒカップを口に運ぶ。 「本当に?」     
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