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でも、今まで泣いてすがっていた少女が目を見開いてこちらを見ている様子を見るに、きっと聞こえたのだろう。
そう信じたい。
「……け」
少女が何かを必死で伝えようと顔を涙でぐちゃぐちゃにして訴えかけてくるが、もう耳に入ってこない。
人の喧騒も、花火の音もいつの間にか消えている。
それから視界が暗転するまで、それほど差はなかった。
同時に、何か大切なものがどんどんと崩れ落ちていく。
真っ暗な世界の中で、俺を形作っていた光が、割れたステンドグラスのようにひび割れ、崩れ、闇の中へと消えていく。
『嫌だよ、こんなの……』
そんななか、最後にさっきの少女の声が真っ暗で何もない世界を満たした。
その声はとても愛しくて、悲しくて、苦しい。そんな気持ちにさせた。
俺にとって絶対に泣かせたくなかった大切な人。
これからもずっと一緒に居られると思っていた日常。
それをこんな形で失うとは誰も予想できなかっただろう。
そして、失ってから改めて実感する。
俺は本当に彼女のことが好きだった。
でも……。
あの子は一体……誰だったのだろうか。
何故か俺は、好きだったはずの女の子の名前を思い出せなくなっていた。
そして、もう彼女の気持ちを聞き出すこともできない。
それだけが、心残りだ……。
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