第二章 平凡……それは幻想

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 あしらうような返事に彼女は不満そうな顔をするも、特に何か言うことはなかった。  そしてしばらく無言で歩き、桜並木が終わりに差し掛かったところで『ねぇ』と、彼女は何かを思い出したように声を上げた。 『一つ聞いてもいい?』 「何だよ?」  特に何か考えることなく、先を促した。  すると彼女は真剣な声音でこう言った。 『いい加減、思い出してくれた?』 「……え?」  唐突に聞かれた謎の質問に俺が足を止めると、数歩先で彼女も足を止めた。 「どういう意味だ?」  質問の意図が読めず、俺が聞き返すと彼女は悲しげな顔をした。 『そのままの意味だよ。あたしを思い出したか? イエスか? ノーか? ただそれだけの質問』  突然口調の変わった彼女に、俺は戸惑った 「そ、そりゃあ、知ってるだろ。だからこうして……」  そこまで言って気づいた。俺の中に彼女との思い出がなかったことに。  何故、今の今まで気が付かなかったのか不思議でしょうがない。  俺は彼女のことを知らない。それも名前や性格、俺との関係性に至るまでの全てが。 「……わから、ない」  絞り出すように出した答えに、ふと彼女の顔に影が差し込んだ。 「そっか……」  そう短く言って辛そうに笑みを浮かべると、こちらに背を向けて桜並木を抜けていった。     
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