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俺は慌てて彼女の後を追う。
「待ってくれ――」
歩き去る彼女に手を伸ばした。
刹那、強烈な風が俺の前を遮った。
桜は舞い、まるで彼女の元へ行かせないようにと行く手を阻む。
そして、舞う花弁の隙間からは、微かだが彼女の姿が確認できた。彼女は花弁の嵐をものともしていないかのように、涼しい顔でこちらを見ている。
俺はなんとか彼女に触れようと花の嵐の中を無理やり進む。だが、進めば進むほど彼女は見えなくなっていき、やがて電池が切れたかのように世界は暗転した。
そして目の前が真っ暗になる前に、微かに見えた彼女の口はこう言っていた。
――桜の下で、待ってるから。
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