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「あと、悠香さんの平手打ち……凄かった……俺が都築さんなら、感覚的な痛みより……心が痛くなるかも……」
そんなしみじみ言われても……
都築くんの場合は、第一印象が最悪だったから……
女の子に手が早いのは、有名だし……
「でも!俺のために怒ってくれたの、嬉しかったですよ!ありがとうございます……やっぱり……遠くから見てるよりずっと……等身大の悠香さんが知れて……いいな……」
お礼の後の、夏ちゃんの呟きは、声が小さくて聞こえなかった。
書庫をある程度片して、部署に戻る途中……
同じ部署の男性編集者が、夏ちゃんを呼び止める。
夏ちゃんを見つめる視線が熱い。
「…あの……いきなり、ごめん……ちょっと話がしたくて……時間貰えないかな?」
男性編集者が、ちらっと私に視線を向ける。
はいはい、私が邪魔なのね!
「夏ちゃん、私先に戻ってるから……戻り方…分かる?」
「…は…はい…大丈夫です」
書庫の時とは違う声質と、雰囲気……
これで中身が男だとは……簡単には分かるまい……
見抜いた都築くん……
流石、女好きだけある。
書庫から出る時に、
『定時までは、俺が男だということは、伏せておいてもらっていいですか?……そういう……条件なので……』
冬子さんと夏ちゃんの間に、何らかのルールがあるのだろう。
「分かったわ」
そう答えるしかない。
その場を離れた私……男性編集者と、向かい合って話している夏ちゃんを見る。
どこからどう見ても、女の子にしか見えないのに……
身長以外は……
その後も、仕事の合間合間に、男性に呼ばれる夏ちゃん。
困った顔の夏ちゃんと、その様子を見てほくそ笑む冬子さん……
……その顔怖いです、冬子さん……
一体、何を調べてるんですか!?
定時になり、冬子さんがフロアにいる編集者に聞こえるように、声を上げる。
「今日は、新部署パースト始動と、新入社員の歓迎会も兼ねて、宴会を設けてるから……参加できる人は参加して!場所と時間はは……」
うちの会社御用達の、行き付けの居酒屋だ……
「悠香、一緒に行きましょう」
冬子さんに声を掛けられる。
「はい…夏ちゃんは?」
「夏には予め場所教えてるし、後で来るわ……それに、ほら……」
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