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最初に入った部屋に向かい、着替えを済ませる。
一刻も早くここから出たい。
…入江くんから……離れたい……
制服を丸めてバックにしまい……そこでふと……眼鏡を置いて来たことに気付くけど……取りに戻ろうとは思わなかった。
なければ困るが……スペアがない訳じゃない……
今は…何よりも早くここからっ!
荷物をまとめ、玄関に向かおうと、その部屋のドアを開けた途端に、足元に擦り寄る、柔らかく温かい存在に視線を落とす。
……ね…こ……?
早く出たい気持ちよりも、その小さな存在に意識を持ってかれる。
すごい……真っ白で、綺麗な猫……
入江くんの猫……
ふと、その猫の首輪が目に留まり、猫に向かってしゃがむ。
……これ……この模様……
自分のバックから、一枚のハンカチを取り出す。
このハンカチは、昔幼い頃に、家を出て行った母が、置いていった服を……私がハンカチとして作った物……
何枚か作ったうちの一枚を……下校中に……子猫に…あげた……
あの時の子猫も……真っ白な猫だった……
「…あなた……あの時の猫ちゃんなの?」
「…ニャーン…ゴロゴロ」
肯定するかのように、鳴いて喉を鳴らしてくれる。
……確かか……どうかは……分からない……
猫の頭をそっと撫で、立ち上がり玄関に向かう。
その時……ある物が目に入る……
…やっぱり……そう…なんだ……
でも、それを今…入江くんに聴いても……何にもならない……
どうして……普通の再会じゃ駄目だったのっ!?
入江くんの気持ちが……ちっとも分からないよっ!
高層マンションのエレベーター……帰りも同様に、長い時間この中にいる。
考えても…考えても……
答えなんか見えない……
やっと一階に着いて、マンションを出る。
空は今にも…雨が降り出しそうな空模様……
こんな状態で、会社になんて行けない……
どこに向かうとも知れず……ただ歩を進める。
その内、ポツポツと雨が降り始める。
この雨が……全部綺麗に洗い流してくれたら良いのに……
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