2248人が本棚に入れています
本棚に追加
/466ページ
「これ、羽織って」
後部座席に手を伸ばした都築くんが、自分のジャケットを、私に手渡してくれる。
「…でも……」
「運転に集中出来ねぇ…俺が悠香さんのエッチな姿にばかり、見惚れて…事故ってもいいのか?」
…それは、困る!
都築くんのその言葉に促され、ジャケットを羽織る。
ムスクの香水が香り、それに包まれる。
車内では、お互い何も話さずにいた。
でも、やっぱり…
見慣れない景色に、不安になり…
「ねぇ…どこに向かってるの?」
そう聴くと……
「俺の家…」
間髪入れずに、そう返された。
ふーん……都築くんの家か……え……?都築くんの……家っ!?
「俺の家がここから一番近い……雨で濡れた身体……早く温めねぇと……」
……さらっと……そう言うけど……都築くんが言うと……どうしても違うニュアンスに聴こえてしまう。
ただ……いつもと口調が違う分で……あまり厭らしさを感じないのは、何でなんだろう……
真剣な顔……してるから……?
車が、モダンな一軒家の車庫に停車する。
……一軒家……?
ご家族と住んでるのかな……?
それならば、尚更この恰好では迷惑を掛けてしまう。
車から下りるのを躊躇してる私を、助手席のドアを開け、手首を掴み引っ張り下ろされる。
「…何してんだよっ!早く家に入るぞっ!」
「あ…ちよっ!…待っ!」
『ちょっと、待って!』そう言いたいのに、強引な程力が強くて……思うような抵抗も出来ずに、玄関まで引き摺られる。
時刻が夕方だったのと、雨のせいで…外も既に暗く、鍵を差し込み玄関を開けた都築くんは、
「ここで待ってな」
そう言って、部屋中の電気を付けながら、どこかの部屋に入る。
都築くんが戻って来るまでの、数分……きょろきょろと周りを見渡してしまう。
……靴……都築くんのしかない……
一軒家に……25の青年が一人暮らし?
バスタオルを持って、戻って来た都築くん。
私の目の前で広げたと思うと、頭からふわりとバスタオルを掛けられ……大きい手が……髪に残る雫を拭き取っていく……
手首を掴んだ時の、強い力ではなく……優しく手付きで……
にやける訳でもなく……真剣な眼差しで見つめられて……そんな都築くんの眼差しを……されるがまま見つめ返してた。
いつもと……違う……
私が知る、都築くんじゃない……別の人みたい……
最初のコメントを投稿しよう!