プロローグ

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「はあー…すっきりしたぁ~!さあ…次はお待ちかねの…………」 お風呂上がり、濡れた髪を無造作にバスタオルで拭きながら、私の……最も至福を感じる物を手に入れるべく、開けた四角のドアの中を覗き込む…… 「……嘘……」 あると思ってた物が……ない…… そんなことって…… 至福の時が……今すぐ味わえない…… その事実に愕然とし……項垂れる。 「……ビールがなあーいっ!」 仕事を終え、真っ先にお風呂に入った後の……キンキンに冷えたビールを呷る。 一日の中で……最も幸せな時間…… あると思って、コンビニ寄らずに帰って来ちゃった…… ……ないなら、買いに行くべしっ! 既に化粧も、綺麗さっぱり落として、コンタクトも外した。 家着はもっぱら、ジャージ上下で過ごしてる。 仕事ではきっちり、スーツ姿でいる反動……でもなくて、昔からそうなのだ。 パーカーを羽織り、黒縁メガネを掛け、財布をパーカーのポケットに突っ込み、まだ濡れる髪を軽く一本で縛る。 幸いなことに、マンションの一階はコンビニがある。 この近辺に、会社の同僚は住んでいない。 この姿を、見られる心配もない……はず…… 一日の仕事の疲れを、癒すための一人酒…… こんな小さなことに、幸せを感じる私…… 気付けば……周りは結婚して、子供がいたりするが当然の年齢になってしまった…… 彼氏いない歴=29年 恋を知らずに……いつの間にか、こんな歳に…… 今まで出会えなかったんだから、これからも出会う訳が無い。 それよりも、何よりも! 今はこの渇いた喉を、早く潤したいっ! ビールを手に入れるため、家着姿でコンビニへ向かう。 ……まさかこの姿の私を…… ばっちり目撃した人物が……春から同じ会社で働くなんて…… この日のことを……後々悔やむことになるなんて…… ビールしか頭にない今の私には……到底予想もつかなかった……
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