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環生の胸に顔を付け、環生の心音に耳を傾ける。
環生の腕の中に抱き留められ、その背に腕を回す。
「…俺と悠香……始まったばかりだよ?この幸せを、簡単に無くしたくないから…生きる努力をする…昨日、悠香と約束した通りだから……無理しない、ちゃんと薬も飲む……だから、心配しないで…」
「…うん…分かった」
心配しないなんて、絶対無理だけど…それを表に出しすぎると、環生を辛くさせるのかもしれない。
上半身を少し離し、環生が私を見つめる。
「…お願いがあるんだ…悠香の時間が出来たら、病院に…一緒に行ってくれる?」
それは、私自身が望んでいたことだった。
「…いいの?」
「うん…今はまだ入籍してないけど、悠香は俺の最愛の人で、家族になるんだから……俺の病状を、知る権利がある…だから、一緒に行って欲しいんだ」
環生から、提案してくれるとは思わなかった。
「い、行くっ!絶対、一緒に行く!」
病状を知って、少しでも長く生きられる治療がないか、知りたい。
環生の命の時間を、少しでも……
「…ありがとう…お昼電話待ってる…悠香が帰って来るの、待ってるから…帰って来たら、一緒に買い物に行こう?…だから、悠香も気を付けていってらっしゃい」
首を傾けた環生の、唇が私の唇に触れるだけのキスを落とす。
「愛してるよ、悠香」
「私も、環生を愛してる」
再度お互いの身体を抱きしめ合い、ゆっくり離れる。
「行って来ます!」
「うん、いってらっしゃい!」
微笑み合って、玄関のドアを開け、扉が閉まるまで、環生と視線を合わせてた。
閉じたドアの先に、環生がいる。
大丈夫と何度も言い聞かせても、環生の傍に居られないことに、居ない間に何かがあったならと、不安で押し潰されそうになる。
この気持ちを抱えて、日々を過ごすことは、私には出来ない。
環生の傍に居る……その未来を掴む為に、ひとつひとつ、けじめを付けなければいけない。
よし……行こう!
両手にぎゅっと力を入れ、登ってきたエレベーターに乗り込む。
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