lesson3ー4 全てを掛けて

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母と別れ、パースト部に向かう。 途中、顔馴染みの同僚と挨拶を交わしながら辿り着く。 いつもより、遅く部署に出勤した私……パースト部の殆どの同僚がフロアに居るのが、入り口から見える。 どうせ、後で知れ渡ることだ。 鞄から退職願の封筒を取り出し、真っ直ぐ自分のデスクに向かう。 「おはようございます!悠香さん…今日は随分遅い出勤ですね!悠香さんにしては、珍しく」 そう声を掛けてくれたのは、都築くんだった。 「おはよう…車で来たの」 そう答えながら、デスクに鞄を置く。 「おはようございます、悠香さん!遅くなった理由、それだけじゃないんじゃないですか?」 どこからか戻って来た夏くんが、爽やかな笑顔でそう言う。 「おはよう、夏くん…それだけじゃないって、どういう意味?」 いつもより、確かに遅く部署には着いたが、会社の中にはいた。 「俺の爆弾投下効果で、目くるめく夜を過ごっ……」 夏くんの口を手で押さえる。 爽やかな笑顔で、朝から何を言うのよっ! 環生が夏くんの爆弾投下に、触発された部分は確かにあったと思う。 頬に熱が集中する。 「おかけ様でっ!」 そう言って手を離す。 「爆弾投下効果って、何?」 私と夏くんのやり取りに、一番気にして欲しくない部分のフレーズを問う都築くん。 「…秘密です」 夏くんのその一言で、都築くんの眉間に皺が寄る。 夏くんの視線が、私の手元に落ちる。 「…悠香さんの思う通りに…」 私にだけ届く声音で、昨日と同じ言葉を掛けてくれた夏くん。 「うん、ありがとう!」 丁度、電話を終えた冬子さんのデスクに歩を進める。 私の姿が目に入った冬子さん。 「おはよう、悠香!」 冬子さんの前に立ち、 「おはようございます、冬子さん」 そう挨拶してから、深く…頭を下げる。 「……悠香?」 定年まで続けようと思っていた仕事。 この仕事に就くのが夢で、就いてからも、壁にぶち当たることが沢山あって……それでも、辞めたいとは思わなかった。 やりたい仕事に、やり甲斐を感じてここまで来た。 私に一から仕事を教えてくれたのは、今……目の前にいる冬子さんだ。 育てて貰ったと、心から感謝している。
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