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その恩も返さずに……何て不義理な後輩だろう……
まさか、退職願を冬子さんに手渡すなんて、少し前の私には考えもしなかったこと。
だけど、もう……
選び取った道に進む為には、ここにいることは出来ない。
顔を上げた私に、困惑している様子の冬子さんの表情が見える。
フロアにいる同僚達も、何事かとこちらを見ているのが、静まり返った部署の様子で分かる。
「一身上の都合により、退職させて頂きたいと願います」
ざわつき始めるフロア。
ガタッと席の立つ音が、すぐ近くで聴こえる。
そのまま、持っていた退職届を、冬子さんのデスクの上に置く。
目を見開いたまま、私を見ていた冬子さんが、デスクの上に置いた退職願に視線を落として数秒……
両手をデスクについて、勢い良く立ち上がった冬子さん。
「悠香、こっちに来て!」
部署に隣接する、来客用の応接室に呼ばれる。
「私はここでも構いませんが……
「私が構うのよっ!他は通常業務に入って!」
既にフロア内の同僚には、知れた私の退職願。
込み入った話だから、場所を移したいという、冬子さんの気持ちも分かるので、言う通りに応接室に向かう。
「…どういう…つもりなの?こんな大事な話、朝一で普通しないわよっ!」
確かに……あまりしないだろう。
「早い方がいいと思ったんです」
出来るだけ早く……環生の傍にいたい。
それが、自分勝手な理由だというのも…充分…分かってる。
「…TAMAKI先生……入江くんと話したのでしょう?悠香の想いが通じなかったの?」
冬子さんのその問いに、クビを横に振る。
「ちゃんと通じました…だからこそ、退職の道を選んだんです」
「辞める意味が分からないわ…想いが通じて、共にいることが出来るなら、仕事を捨てなくてもっ!」
─ガチャッ!─
冬子さんの言葉の後すぐに、ドアが開く。
「駄目ですよ、都築さんっ!」
夏くんが都築くんを静止するも、応接室に進んでくる都築くん。
「失礼します!お邪魔なのは百も承知ですが、黙って待ってることが出来ませんっ!辞めるって……どういうことですかっ!?」
都築くんが冬子さんと並び、私に向かいそう言う。
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