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静かにドアを閉めた夏くん。
「気持ちは分かるけど、ふたり共出て行きなさい、今悠香と話してるのは私よ」
珍しく余裕のない声の冬子さんが、都築くんと夏くんにそう言うが、都築くんはそれを受け入れなかった。
「今は…冬子さんの言葉であっても、利くことは出来ませんっ!」
冬子さんにそう返答するも、都築くんの視線が向いているのは私だ。
「…まったく…」
都築くんのその様子に、諦めた声の冬子さん。
「辞めるって、何で急にそんな話になったんだっ!?」
都築くんが声を荒げる。
素の話し方になってる事に、多分…本人は気付いていない。
「結婚…するんです」
「「…結婚……?」」
事情を知る夏くん以外の、ふたりの声が重なる。
「…悠香さんが……結婚……TAMAKI…先生と…?でも彼はっ、長くは……生きられないんだろっ!恋人としているだけじゃ、駄目なのかよっ!仕事だって、辞める必要なんかっ!」
都築くんの言葉に、首を横に振る。
「恋人としてだけじゃ、越えられない線があるの……それだけじゃ、彼の身に潜む病を知ることは出来ないし、仕事を続けながらじゃ…私がいない間に、彼の身に何か起きたらって不安になる……その不安を抱えながら、日々を過ごす事は、私には出来ない……それに、限られた時間だからこそ……彼の傍にいたいの」
私の言葉に、押し黙る冬子さんと都築くん。
「冬子さんに、一から仕事を教えて貰ってここまで来たと思っています……生涯…は無理でも、本を作るという仕事に携わっていきたいと…そう、思ってました……でも、今私が一番大切だと思えるのは、彼だから……彼の傍にいれるだけいたいんです…その為には、仕事を続けてはいられない…それが、私が後悔しない為に選んだ道です」
「…後悔しない為に…か…」
冬子さんがそう呟く。
「悠香さんの背を押したのは、姉貴だろ?悠香さんの生き方に、誰も口だしなんか出来ない……堅い覚悟を持ってる…それに、出版社に居なきゃ、本を作る仕事が出来ない訳じゃない……辞めたら終わりって考えるから、ひとつの考えしか辿り着けないんじゃないの?」
ドアに背を預けていた夏くんが、静かにそう言った。
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