lesson3ー4 全てを掛けて

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諸々のことは後で決めるといいと、言い放ち、高笑いのまま、応接室を出ていく冬子さんの背中を、茫然と見つめていた。 ライターへの転身…… 喜べない…… 「…悠香さんのセクシーランジェリー姿……入江さんの独り占めですね」 夏くんのその呟きで、我に返る。 環生に……下着姿を見せる…… 事情を説明すれば分かってくれるだろうけど…… 私がっ…恥ずかしいっ! そんなもの、身に付けたことないんだからっ! 「…でも、まあ…前進しましたね!」 「うん!ありがとう、夏くん」 全てが思い通りにいかずとも、今私が願うものに、近付いているのは確かなんだ。 「…悠香さんは、石橋を…何度も叩いて渡るタイプだと思ってた…」 都築くんがそう言う。 「幻滅した?」 「いや……その逆…」 それだけ言って応接室を出て行く都築くん。 「…荷物整理手伝いますよ!俺達も戻りましょう」 「ありがとう…でも、自分でするわ…夏くんは通常業務に戻って…」 「うーん…姉貴…あのまま人事部に悠香さんの退職願を持って行って、退職に必要な書類を持って来ると思います……それは、いいんですけど……色々早い方がいいから……でも、多分…悠香さんはこの後、時間が取れなくなると思います…だから、俺が手伝います」 『時間が取れなくなる』って、どういう意味だろう? そう思いながら、夏くんと共に応接室を出る。 フロアにいる人の視線が、一斉に向けられるが、そのまま自席へ向かう。 きちんと説明する機会は、後であるはずだ。 それに、私の退職の意思を、ここにいる同僚達は聴いていた。 朝一からお騒がせして、申し訳ないと心で謝罪する。 夏くんの予言通り…… 私の荷物整理は、全く捗ることは無かった。 社内中に私の退職の話が広がり、それは……パースト部の同僚の、男性編集者の方々から始まった。 『…広瀬さんっ!ずっと好きでした…見ているだけでいいと思っていたのに……あなたが退職してひまったら、見つめることも出来ない!せめて、想いを伝えたくて……』 『好きです!前回も振られましたが、雰囲気の変わった広瀬さんを、益々好きになって…どうしても広瀬さんが欲しい!』 『今夜…一緒に過ごさないか?』 数々の告白や誘いに、呼び出される。 ……皆…仕事してよ……
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