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なかなか部署に戻ることもままならず、一歩動いては声を掛けられる。
「広瀬さん!」
またですかっ!
「…あの、ずっと好きでした…いつか声を掛けようと思って機会を伺ってたら、広瀬さんが退職するって…い、一度だけで良いんです!今度僕とデ、デートを…」
「お断りさせて頂きます」
「「…えっ!?」」
私と、私に告白している彼の声が被る。
目の前の彼が、最後まで言葉を発せぬ内に、拒否の言葉を告げた……私の隣りに立つ人を見上げる。
「…なっ!?…何でいるのっ!?」
いるはずのない人が……ここにいる。
「夏くんから連絡貰ったんだ」
眼鏡の奥の目が、私を優しく見つめる。
「…貰ったって…」
「ちゃんと佐伯さんの了解も得てるよ…それに、須藤出版に来たことなかったしね…小説家の俺が、自分の籍を置く出版社に来ても、別に不思議じゃないでしょ?」
それは……そうだけど……
「…あ、あの…」
私と環生の前にいた彼の声で、弾かれる。
そうだった……環生の登場ですっかり忘れてた。
「申し遅れました…僕は小説家を生業としている者で、ペンネームはTAMAKIといいます…広瀬 悠香の婚約者です」
私が口を開くより先に、環生がそう言った。
「…え…!?ぇええっ!?か、官能小説家のTAMAKI先生っ!?…TAMAKI先生が広瀬さんのっ婚約者っ!?」
少し離れた位置に、沢山の人がいる。
その人たちに、彼の驚愕の声は響いたらしく、辺りはザワザワしている。
「はい…ですので、悠香へのお誘いは、断らせて頂きます…それでは」
彼に会釈をし、私に向き直る環生。
「パースト部に行こうか?」
「…え…あ、うん…でも、ちょっと待って」
茫然とする彼に声を掛ける。
「好意を持ってくれてありがとう…でも、受けることは出来ません…ごめんなさい」
告白してくれた彼に頭を下げる。
「…広瀬さん…いえ、気持ちを伝えられただけでも、満足です…お幸せに…」
そう言って立ち去る彼。
「…何か…妬ける…」
横にいた環生がぼそっと呟く。
「妬くことなんか…ちゃんと全部断ってるもの…」
「分かってるよ…分かってるけど、俺の悠香なのにって…思っちゃうんだよ」
「間違ってない…私は環生のものだよ」
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