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そんなに、喜ばしいことじゃないのよっ!
私にとってはっ!
心の中で叫んでも、誰にも聴こえない。
「お話中すみません…」
自分のデスクから立ち上がった都築くんが、真っ直ぐ環生を見つめ、声を掛ける。
「初めまして、TAMAKI先生…僕は都築 真吾といいます…不躾で申し訳ありませんが、少し…僕にお時間頂けませんか?TAMAKI先生とサシで、話をしたくて」
穏和な笑顔を貼り付けてはいるが、都築くんの目は笑っていない。
…何を…言うつもりなの?都築くん!
「…諦めが悪いですよ、都築さん」
夏くんが都築くんにそう言うが、
「納得してないからね」
「真吾っ!」
冬子さんも、都築くんの名を呼び、止めようとする。
「構いませんよ…お話、伺います」
「環生……」
「そんな顔しないで…俺の決意は変らないから」
環生の顔を見上げる私に、変わらず優しい笑顔の環生が、私の頬を撫でる。
「応接室借ります…こちらに」
環生が都築くんの後に続き、応接室に向かう背中を見つめる。
「入江さんを連れて来たら、都築さんが黙ってないとは思ってましたが……敵意剥き出しでしたね…都築さん」
不安を煽るようなことを言う、夏くん。
「でも、今の入江さんなら、大丈夫ですよ…心配要りません…今の内に、デスク整理終わらせてしまいましょう!」
「…でも…」
中のふたりのことが気になって、応接室から目が離せない。
「夏の言う通りよ…真吾のあの視線を真っ直ぐ受け止めてたわ、TAMAKI先生…揺るぎない想いを持った人の強い眼差しをしてた…だから、大丈夫よ!それに、真吾を納得させるなら、他の誰でもないTAMAKI先生と話した方がいいと思う……はい、これ…退職に必要な書類よ」
「…ありがとうございます…」
心配は拭えない。
でも…環生を信じて待つしか、今の私には出来ない。
でも…お願い…都築くん。
環生の心を傷付けないで……
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