2248人が本棚に入れています
本棚に追加
/466ページ
「それで、明日からはもう出勤しなくていいの?」
「今日付で退職していいって、冬子さんが言ってた」
……どういう根回ししたんだ、佐伯さん。
普通、最短でも一ヶ月は、退職届を提出しても、会社には在籍していなきゃならない筈だ。
それを、退職の意を伝えたその日に受理させるって……
佐伯さんて、とてつもなく凄い人なんじゃ…
「急展開だけど、私の希望を叶えてくれたのは、冬子さんなんだよね…ライターへの転身は、その見返りかもしれないけど…でも、これで…」
悠香が上体を横に向け、俺の肩に腕を回す。
「環生とずっと一緒にいられる」
「うん」
どちらとも無く近付いた距離が、ゼロになり、唇が重なる。
振れるだけのキスを繰り返し、少しだけ顔を離す。
「明日…病院に行く…一緒に行ってくれる?」
「勿論!でも…まだ籍をいれてないから、話は聴かせてもらえないのかな…」
不安そうな顔をする悠香。
「婚約者として掛け合ってみよう?」
「うん、そうだね!」
笑顔を見せてくれた悠香に、俺も笑顔を向ける。
本当は…聴かせたくないと、思う。
だけど、俺と向き合う為に覚悟を決め、仕事まで手放した悠香の、強い想いから、俺が逃げちゃいけない。
もう逃げないと、誓ったんだから。
「それから、一旦マンションに戻って、悠香のお父さんに挨拶しに行こうと思ってるんだ」
「…明日?…病院行った後で疲れるんじゃない?無理…しなくても」
婚姻届を出すためには、通さなきゃいけない筋がある。
これは、避けて通ることは許されない。
「早く、悠香と結婚したいんだ」
「それは、私もだよ?だけど…」
悠香の額に自分の額を付ける。
「大丈夫!病院の後直ぐじゃないし、お父さんだって仕事してるでしょ?会うのは、お父さんの都合もあるけど、夜になるだろうし…充分休んでから動けるんだから…だから、お父さんに連絡してくれると嬉しい」
見つめあって数秒。
悠香が微笑む。
「うん、環生がそう言うなら信じる…後で、お父さんに連絡しとくね」
「ありがとう!」
微笑み合い、再度悠香の唇の熱を感じる。
きっと…簡単にはいかない。
それでも…悠香の全てを手に入れたい。
その為の努力を…出来る限りのことをするんだ。
最初のコメントを投稿しよう!