lesson3ー4 全てを掛けて

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「それで、明日からはもう出勤しなくていいの?」 「今日付で退職していいって、冬子さんが言ってた」 ……どういう根回ししたんだ、佐伯さん。 普通、最短でも一ヶ月は、退職届を提出しても、会社には在籍していなきゃならない筈だ。 それを、退職の意を伝えたその日に受理させるって…… 佐伯さんて、とてつもなく凄い人なんじゃ… 「急展開だけど、私の希望を叶えてくれたのは、冬子さんなんだよね…ライターへの転身は、その見返りかもしれないけど…でも、これで…」 悠香が上体を横に向け、俺の肩に腕を回す。 「環生とずっと一緒にいられる」 「うん」 どちらとも無く近付いた距離が、ゼロになり、唇が重なる。 振れるだけのキスを繰り返し、少しだけ顔を離す。 「明日…病院に行く…一緒に行ってくれる?」 「勿論!でも…まだ籍をいれてないから、話は聴かせてもらえないのかな…」 不安そうな顔をする悠香。 「婚約者として掛け合ってみよう?」 「うん、そうだね!」 笑顔を見せてくれた悠香に、俺も笑顔を向ける。 本当は…聴かせたくないと、思う。 だけど、俺と向き合う為に覚悟を決め、仕事まで手放した悠香の、強い想いから、俺が逃げちゃいけない。 もう逃げないと、誓ったんだから。 「それから、一旦マンションに戻って、悠香のお父さんに挨拶しに行こうと思ってるんだ」 「…明日?…病院行った後で疲れるんじゃない?無理…しなくても」 婚姻届を出すためには、通さなきゃいけない筋がある。 これは、避けて通ることは許されない。 「早く、悠香と結婚したいんだ」 「それは、私もだよ?だけど…」 悠香の額に自分の額を付ける。 「大丈夫!病院の後直ぐじゃないし、お父さんだって仕事してるでしょ?会うのは、お父さんの都合もあるけど、夜になるだろうし…充分休んでから動けるんだから…だから、お父さんに連絡してくれると嬉しい」 見つめあって数秒。 悠香が微笑む。 「うん、環生がそう言うなら信じる…後で、お父さんに連絡しとくね」 「ありがとう!」 微笑み合い、再度悠香の唇の熱を感じる。 きっと…簡単にはいかない。 それでも…悠香の全てを手に入れたい。 その為の努力を…出来る限りのことをするんだ。
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