lesson3ー4 全てを掛けて

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次の日、悠香と一緒に、末期癌の診断を受けた、総合病院の呼吸器科を受診した。 受付で、 「すみません…今日は、病状と今後の治療について、婚約者と一緒にDrから話を聴くことは、可能ですか?」 予め出来るかどうか、確認しようと思い、そう尋ねてみた。 「…個人情報ですので、当院では、御家族にしかその権限は適用されません…婚約者と仰られましても、無理かと…」 やっぱりか…… 思っていた通りの答えが返って来て、隣に居た悠香が俯く。 「分かりました…では直接僕が、Drに掛け合ってみます」 そう受付に言い、待合室のソファーに座る。 「…やっぱり…無理だったね」 ソファーに座った途端、悠香がそう言った。 病院には病院の定められたルールがある。 それは分かる。 でも、患者自身が望むことにも、少しは耳を傾けても欲しい。 だが、希望がない訳じゃない。 「大丈夫だから、そんな顔しないで…多分担当医の宮本先生なら、分かってくれると思うんだ」 会ったのは2回だけど、何となくいい意味でDrらしくないDr…だと思った。 セカンドオピニオンをしないのは、担当医の宮本先生の人柄が気に入ったというのもある。 診断結果の時、家族を連れて来なかった俺に、困惑の表情を浮かべてたのを思い出す。 頭でっかちじゃなくて、ちゃんと患者の意思を尊重し、心に寄り添ってくれる。 そう思った。 宮本先生なら、きっと…… 俺の意思を理解してくれる。 何となく、絶対の自信が俺にはあった。 「環生は、その宮本先生のことを、信頼してるのね?」 「うん、そうだね」 病気にならなければ出会わなかった存在。 だけど、宮本先生の様なDrが、担当医で良かったと思ってる。 悠香と指を絡めて手を繋ぎ、30分程待って名前を呼ばれた。 「入江さん、入江 環生さん、診察室へどうぞ」 「行って来る」 「うん」 手を離す前に、ぎゅっと悠香の手を少し強く握ってから離し、診察室へ向かう。 診察室へ入る手前で、悠香に振り返る。 不安そうな顔…させてるんだろうな…やっぱり… そう思って振り向いたのに、悠香は俺と目が合って、ふわっと笑ってくれた。 その笑顔に驚きつつ、俺も笑顔を見せる。
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