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次の日、悠香と一緒に、末期癌の診断を受けた、総合病院の呼吸器科を受診した。
受付で、
「すみません…今日は、病状と今後の治療について、婚約者と一緒にDrから話を聴くことは、可能ですか?」
予め出来るかどうか、確認しようと思い、そう尋ねてみた。
「…個人情報ですので、当院では、御家族にしかその権限は適用されません…婚約者と仰られましても、無理かと…」
やっぱりか……
思っていた通りの答えが返って来て、隣に居た悠香が俯く。
「分かりました…では直接僕が、Drに掛け合ってみます」
そう受付に言い、待合室のソファーに座る。
「…やっぱり…無理だったね」
ソファーに座った途端、悠香がそう言った。
病院には病院の定められたルールがある。
それは分かる。
でも、患者自身が望むことにも、少しは耳を傾けても欲しい。
だが、希望がない訳じゃない。
「大丈夫だから、そんな顔しないで…多分担当医の宮本先生なら、分かってくれると思うんだ」
会ったのは2回だけど、何となくいい意味でDrらしくないDr…だと思った。
セカンドオピニオンをしないのは、担当医の宮本先生の人柄が気に入ったというのもある。
診断結果の時、家族を連れて来なかった俺に、困惑の表情を浮かべてたのを思い出す。
頭でっかちじゃなくて、ちゃんと患者の意思を尊重し、心に寄り添ってくれる。
そう思った。
宮本先生なら、きっと……
俺の意思を理解してくれる。
何となく、絶対の自信が俺にはあった。
「環生は、その宮本先生のことを、信頼してるのね?」
「うん、そうだね」
病気にならなければ出会わなかった存在。
だけど、宮本先生の様なDrが、担当医で良かったと思ってる。
悠香と指を絡めて手を繋ぎ、30分程待って名前を呼ばれた。
「入江さん、入江 環生さん、診察室へどうぞ」
「行って来る」
「うん」
手を離す前に、ぎゅっと悠香の手を少し強く握ってから離し、診察室へ向かう。
診察室へ入る手前で、悠香に振り返る。
不安そうな顔…させてるんだろうな…やっぱり…
そう思って振り向いたのに、悠香は俺と目が合って、ふわっと笑ってくれた。
その笑顔に驚きつつ、俺も笑顔を見せる。
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